愛の確認

 寒気が長々と居座り続ける冬のある日の夕方、空良は足早に家へと向かっていた。
 いつもなら、この時間はまだスタジオにいるが、今日という日だけは早めに帰宅することにした。
 仲間達に「今日は早めに終わるとしようか」と声をかけると、一斉に空良の方を向いた。
 仲間が一人、空良に近づく。
「何で? 今日はバレンタインでもないだろ」
 カレンダーを見ながら、首を傾げるその男に空良は爽やかな笑みを浮かべる。
「妻のために早く帰りたいんだ」
 女性陣から、「きゃあ」と感嘆の声があがり、男性陣はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
 その後、仲間達からは随分と冷やかされたが、気にはならない。そんな空良の態度に周囲は、「惚気やがって!」と空良の体のあちこちをしつこいくらいに小突きまくってきた。

 仕方がないだろう。今日は愛妻の日なんだ。

 空良の顔に自然と笑みがこぼれた。
 空良も、妻の宵奈も、共に一般的なイベントに合わせて休める職業には就いていない。必然的に世間一般とはズレた日に楽しまざるを得ないのだ。
 有り難いことに宵奈はこの日はたまたま一日休みになっていた。
 空良の方は、二週間後のバレンタインコンサートに向けての練習があるので休むことが出来なかった。今朝、起きてから練習を始めるまで早く帰宅できるかどうか空良はやきもきしていたが、今日の練習は驚くほど順調に終わらせることが出来た。
 よって、愛妻の日は二人が当日に楽しめる貴重なイベントになったのだった。
「早く帰りたいな」
 そう呟くと、空良は歩くスピードを上げた。


 家に帰れば、宵奈が玄関で出迎えてくれた。
「外は寒かったでしょう。早く中へ入ってください」
 空良は宵奈にコートを渡すと、家の中へと入った。その後に宵奈が続く。
 空良は振り返らず「いつも有難う。宵奈さん」と言うと、宵奈は「当然のことをしているだけです」と返した。
 空良が愛妻の日にまず妻にかけた言葉は、感謝の言葉にした。
 その後はいつも通り食事をし、ゆったりとした時間を二人で過ごした。
 二人はソファに寄り添う形に座って、テレビを見、今日のあった出来事を語り合った。
「チカがまた星夜さんといろいろあったらしいんです」
 宵奈は苦笑した。
「またですか。星夜にはもう少しセーブしろと常々、言ってはいるのですが」
 空良も苦笑する。
 空良の弟である星夜は、宵奈の異父妹である誓と付き合っていた。二人の仲は、ドタバタしているものの順調ではある。ただ星夜の愛情表現が度を過ぎることがあり、その度に誓が恥ずかしがって逃げて、宵奈に連絡が入るのであった。
 宵奈は困ったように頬に手を当てる。
「チカには、星夜さんの気持ちから逃げずに受け止めるようにいつも言っているのですが、なかなか実行に移せないみたいで・・・・・・」
「いいえ。誓さんが自然に受け止められるようになるまで待たない星夜の方が悪いんですよ。またあいつにはメールしておきましょう」
 空良は宵奈に微笑み、しっかり抱く。
「・・・空良さん? どうしたんですか?」
 宵奈が不思議そうに首を傾げる。
 空良はやや躊躇ってから、口を開く。
「・・・宵奈・・・」
「はい」
 空良は宵奈の顔を愛しげに見つめる。
「愛してる」
 空良は宵奈の身体全体に染み渡るように言葉を紡いだ。
 宵奈は顔をほんのり朱に染めた。
「空良さん。私――――」
 空良の気持ちに応えようとする宵奈の唇に、そっと空良は指を添えた。
「今日は愛妻の日なんだ。今日だけは俺にたくさん言わせて欲しい」
 空良は唇からそっと指を外し、顔を近づけた。
「宵奈。愛しているよ」
 先程よりも強い想いを込めて、空良は愛の言葉を囁き、宵奈に口付けた。


2012年の愛妻の日(1/31)合わせで、咲也さんがブログに、空良さんと宵奈のお話を書いてくれました!「愛妻家」と聞いて思い浮かんだのが空良さんだったそうで、新婚さんをイメージして書いて下さいましたv
宵奈は拙宅の百首家から、咲也さん宅・神守家へお嫁に行った子です。どちらかと言うと感情表現が大きい子では無いので、考えてる事が相手に伝わり辛い事が多かったのですが、空良さんにはちゃんと伝わっているようで安心しました。
空良さんと宵奈は、とても安定したカップルと言う印象があります。色々な診断をしてもラブラブな結果が多くて…誓も、もっとその辺りを見習えばいいのに(笑)。

甘い甘い新婚さん話をありがとうございました!
咲也様のサイトはこちら→碧空明々なり!

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